突然ですが、『西洋占星術 科学と魔術のあいだ』という本の紹介です。
内容としては科学史家の中山茂という方が、西洋占星術と科学との関係について「反対でも賛成でもない立場(p.4)」から述べたものになっています。
既にどこかで占星術の歴史を学んだことのある人間にとっては物足りない、基本的な情報ばかりかもしれませんが、それ故に入門の一冊としては良い本だということで、紹介させていただきます。
『西洋占星術 科学と魔術のあいだ』要約
私が今回紹介するのは1992年に講談社から出版された『西洋占星術 科学と魔術のあいだ』という本です。
補足しておきますとこれは新書版で、最近では文庫版として新しいものが出ていますので、もし読むならそちらをオススメします。kindleとかでも読めるっぽいです。
章構成としては以下のようになっています。
第1章:カルデアの知恵
第2章:ギリシャ人の科学
第3章:ホロスコープの技術
第4章:「占星社会」ローマ
第5章:ルネサンスの大論争
第6章:近代科学からの脱落
第7章:現代を生きる占星術
そして、これらに全てについて内容を拾うとなると、それは結構な文の長さになってしまうので、「私が重要だと思った」ポイント・知識について以下に記していこうと思います。
ですので、あくまでもこれは一つの読み方に過ぎませんので、注意してください。
ただ、出来るだけ要約することを目指して、全体の骨格重視でまとめたつもりです。
バビロニアと「宿命占星術」
文明の発展と共に人々は天に関心を向ける余裕が出来てきますが、占星術・天文学はバビロニア文明が一番古かったのではないかというのが定説とされているようです。
それは西洋文明において「カルデアの知恵」とよばれ、カルデア人とは、紀元7世紀に最後のバビロニア帝国をたてた種族であり、ペルシャにほろぼされ、遺民が西方に流れてギリシャ・ローマの中に文化(占星術・天文学の知識)を伝えたのですが、その点で占星術の根っこにはバビロニア文化があると言えます。
バビロニア文化が成熟する中で、元々は地上に住むと考えられていた神々の神殿が天と結びつき、天の現象が神の声と解釈されるようになったようです。
さて、ここまで「占星術」と何の断りもなく用いてきましたが、この本で主に扱われる占星術は著者が「宿命占星術」と呼ぶものです。
この区別について、本書では以下のように述べられています。
今日われわれにおなじみになっている個人の運勢や宿命を占う占星術よりも前に、別種の占星術があった。それは、天にあらわれた、人を驚かせ不安にさせるような変事を、地上に災厄をもたらす前兆と考え、来るべき災厄を占うものである。これを「天変占星術」という。(中略)
それに対して、後に述べるように、この本の主題となる個人の運勢や宿命を占う占星術を「宿命占星術」とよんで区別する。
『西洋占星術 科学と魔術のあいだ』28ページ
占星術の始まりは前者の「天変占星術」の方であって、天変の意味づけとそれに対する予報性・予防性は(専制)君主 の権威づけに利用されました。
天変占星術の特徴としては経験的で数学的な要素はなく、国家に特権的なものであったと言えるでしょう。
一方で、個人の運勢を占う「宿命占星術」というのは、公共性や庶民性を持っているというのが特徴です。これはギリシャ・ローマ社会での流行もその特性故ですし、現代に至るまでの特徴であるとも言えそうです。
このサイトで紹介しているような占星術は「宿命占星術」だと言えますし、今ある占星術も全てこれだと言えるでしょう。
ギリシャ文化・ローマ社会への伝播
ホロスコープがさかんになり、完成したのはギリシャ・ローマ文化のなかで、とくにヘレニズム時代になってからでした。
ギリシャ文化及び「ヘレニズム(ギリシャ主義)」においては、アレクサンダー大王がエジプトを征服した後に作ったアレクサンドリアの役割が大きいと言えるはずです。
アレクサンドリアにて、バビロニアの天文学にギリシャやエジプトの伝統が混じりあい、現代へ通ずるホロスコープを用いた占星術の形が出来上がりました。宿命占星術はヘレニズム時代の科学の一つだったのです。
一方でローマ社会においては、ギリシャ人のように独創的な知識は付け加えられなかったものの、「ローマ社会はおそらく有史以来、上から下まで宿命占星術の必然性がもっとも信じられていた社会であろう。(p.104)」と述べられるように、占星術の普及という点では重要な役割を果たしました。
民衆の間で流行したのはイメージしやすいですが、ローマ皇帝の中にもティベリウス・ドミチアヌス・ハドリアヌスなど、熱心な信者がいたことは大きいでしょう。
しかし、キリスト教がヨーロッパを支配して、その勢力を拡大していくにつれて、ギリシャ・ローマ文化、及び占星術は衰退期を迎えます。
占星術は禁令を出されたり、表向きには発信できないような時期を迎えます。
これは、そもそも占星術のルーツであるバビロニアは多神教(星に対応する神々が居る世界観)であって、聖書を教典とする一神教、ヘブライズムとは根本的に相性が悪いのです。
このことを踏まえると、私達はホロスコープを用いた(宿命)占星術を「西洋」占星術と呼びますが、それは「西洋」の価値観の大きな部分を占めるキリスト教とは根本的には相容れていないので、実は変な呼び方というか、イメージとそぐわないものなのかもしれないなと思ったりします。
ニュートン的世界(近代科学)観の普及と占星術の役割
占星術が科学から脱落したとみなされるようになった決定的な出来事は、ニュートン出現以後の「力学的自然観」でした。
これは物理現象は力学現象に還元できるという世界観であり、全ての現象の説明(科学)はニュートン力学の方程式を解くことだとみなされます。その世界観では、太陽以外の惑星の影響(重力)は無視できるほど小さいので、それは占星術の否定に繋がります。
また、天王星の発見というのも重大な出来事でした。
天王星は1781年にウィリアム・ハーシェルが発見しましたが、それまで前提とされていた惑星の数自体が変わることによって、従来の占星術は理論の修正を求められることになります。
そして、ニュートン以後の世界観が普及したが故なのですが、天王星の軌道が計算結果と合わない事から、1846年に海王星も発見されました。
その後の1930年には冥王星が発見されます。今の現代占星術は修正を重ね、冥王星を含めた体系で知られています。
ただ、そういう風に占星術の「科学」としての立場が弱くなっても、不安な未来について知りたい・予測したいという役割は弱くならず、むしろ現代の情報化の流れに伴って強くなっているとも言えます。
このことについて、著者は以下のように述べています。
占星術は人間中心主義に立脚している。それに対して、科学は人間中心ではなく、自然中心である。(中略)占星術の中心には、未知の未来を知りたいという人間的要求がどっかりすわっている。
『西洋占星術 科学と魔術のあいだ』184ページ
昔から、ある人々の心の不安を減少させることに占星術は貢献してきた。その現代の情報化社会のなかでの役割は、未知の不安を減らし、不確実な未来を克服し、さまざまな選択肢のなかから迷わず決断することを助けるための、情報収集手段の一つだと考えられるのである。
『西洋占星術 科学と魔術のあいだ』204ページ
そもそも、近代科学と占星術とは目指すものとその役割が違うだろうということです。そして、占星術は不安で運命に身を委ねたい人に、対処療法のひとつとして使われてもよいだろうと述べられていました。
『西洋占星術 科学と魔術のあいだ』感想
という訳で、ここまで本書の骨格を大まかに紹介してきましたが、実際には詳細な歴史や人物・用語、論の展開など、省略した所は多くあります。ですので、是非読んでみて欲しいところです。違った印象や感想を抱くかもしれません。
私の感想としましては、色々思うことは多かったです。
特に、現代(情報)社会における占星術の役割についての著者の考えは私自身の考えに近いながらも、「科学」の立場として「占い」から一定の距離を取っている著者との間にはやはり相違もあるなと思いました。
また、私が(今のところ)目指す「占いは理論を完全にシステム化した上で鑑定結果に統計学的検証を十分に行うことで一定の範囲の有効性を保証すべき」という考えも、決定論的な世界観が強い立場ではあるので、悩ましいなと思ったりしました。(※一応、ずっと悩んではいるのです……。)
それでも私は受け手の「解釈」というものが存在する限り、著者の述べるような役割を占星術は持てるのではないかと信じています。
そういう訳で、占い本というのはメソッド本なので一つの記事として内容を要約したり、一部だけを紹介することは難しいのですが、こういう科学本であれば紹介できるのではないかと思って、やってみました。
文章を書く過程が自分の思考や知識の整理に役立ったので、今後も占いに関係のある科学本とかをちょくちょく紹介していこうかなと思います。
あと、最後になるのですが、一応このブログは1ヶ月に1記事は更新しようと心がけているのですが、ここ3か月近くは私事のゴタゴタとコロナによる体調不良が重なりまして、中々更新できませんでした。
そういうこともありますので、今後はあまりにも期間が空きそうならブログの上の方にインフォメーションを出すようにします。
よろしくお願いします。
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